人工知能が変える
税理士の未来

人工知能(AI)の導入による税理士業務への影響は?

まずは、税理士業務の内容及び税理士の実態について、簡単に説明したいと思います。

税理士業務の内容は税理士法に規定されており、大きく3つに分類されています。①税務書類の作成、②税務相談、③税務代理であり、すべて無償独占業務となっており、いわゆる、記帳代行業務は付随業務と位置付けられています。
税理士の実態については、日本税理士会連合会が、概ね10年ごとに、税理士実態調査報告書を作成しており、直近では、平成27年3月現在のものがあります。報告書によると、登録者数は76,493人、50歳以上が68.9%と全体の2/3を占めています。平均収入は2690万円、平均所得は744万円、また、資格取得前の職業は、税理士事務所43.2%、税務職員31.0%と3/4を占めています。パートを含む従業員を雇用していない税理士の割合は68.9%、平均雇用者数2.7人、資本金1億円以下の法人関与先は96.8%(うち、資本金1000万円以下 82.6%)、海外進出していない関与先の割合は90.0%となっています。中小零細企業の記帳代行を含む事務処理を、一人で対応している税理士が多いことが分かります。

まず、結論を申し上げます。現在、税理士が行っている業務の8割程度は、自動化による業務改善・効率化の余地があり、税理士を取り巻く環境は、今後10年で大きく変わると思っています。税理士業界のみならず、日本社会全体が、良い意味でも、悪い意味でも、業務の無駄と非効率であふれ返り、残業もなかなか減りません。業務の効率化は、時間を創造し、気持ちに余裕を与え、新たなる挑戦の機会を生み出します。

本日、私自身のフィギュア(蝋人形)をお持ちしましたが、このフィギュアにAIチップを埋め込み、私の分身となる日が来ると信じています。
税理士業界でも、IT化やFinTechの流れの中で、ひと昔前の伝票会計からクラウド会計への移行が始まっていますが、まだまだ効率化の余地は大きいと言えます。ICカードやクレジットカード、インターネットバンキングなどの利用が増えてきており、紙の領収書がなくなるのも時間の問題です。全てのデータが電子化されると、日常業務は会計・申告データのチェックのみとなり、税務アドバイアスや税務コンサルティングがメイン業務になってきます。その結果、現状の税務顧問というシステムは無くなる可能性があり、顧問料以外の安定した固定収入の確保が課題になってくると思います。

都市部では、既に、減少傾向にある中小クライアントの争奪戦が激しく、顧問料の引下げが続いている一方、相続や組織再編、国際税務など専門分野に特化した事務所も出始めてきています。前者のビジネスモデルでは、低価格で大量の業務をこなし規模の利益を追求する必要がある為、今後、記帳代行や取引内容のチェックに特化した専門業者の寡占化が進む可能性があります。今後、クラウド会計のAI化が進めば、チェック業務も不要となり、エラー項目だけを人間が確認、更に、申告書も自動作成できるようになれば、少なくとも、事務処理としての税理士の仕事は無くなります。ただ、節税などのアドバイス業務は残りそうですが、インターネットで専門的知識や経験が共有され、検索すれば確認できますので、よっぽど込み入ったケースは別として、一般的な節税アドバイスで報酬を得るのは難しいと思います。そもそも、AIによる自動化が進めば、クラウド会計で収集したビッグデータを活用しながら、クライアントの業種、業態、規模、状況にあった節税アドバイスをAIが代替して行える様になる為、税務相談やコンサルティング、税務調査対応といった一部の業務しか残らないかもしれません。今後、国税庁が税務調査にAIを積極的に活用し、調査対象の選定や異常項目の抽出などが自動化され、調査効率が高まれば、税務調査対応に特化した専門サービスが誕生するかもしれません。

税務業務のAI化は、アメリカが先行しており、アメリカ最大の税務サービス会社であるH&R Block社が、2017年から、IBM Watsonを活用した税務申告サービス「H&R Block with Watson」をスタートさせました。Watsonには連邦税法など膨大なデータが蓄積されており、顧客とのインタビューで得た情報から還付税額の算定などを行います。日本でも、数年後には、Watsonの税務サービスが上陸する可能性もありますが、税法は国ごとに異なり、しかも毎年改正がありますので、AIシステムの学習期間を考えると、本格稼働までには最低5年以上はかかるのではないかと思います。

税務相談や税務コンサルティングは、完全に自動化するのは難しいと思いますが、簡単なQ&A形式の受け答えであれば、近い将来、実現は可能であると思います。AIは、条件が明確かつ限定的で、過去のデータが豊富にあり、目的や課題が明示されている場合には、人間よりもはるかに高い能力を発揮します。しかし、人間の感情や暗黙知を読み取ることが苦手である為、人間が対応した方が顧客に安心感を与えスムーズな対応が可能となるなど、現時点では、完全にAI化される可能性は低いと言えますが、日常生活の中で、AIが普及し、人間がAIとの対話に違和感を抱かなくなった段階で、一気に普及する可能性もあるかと思います。最終的には、費用対効果の観点から、AI化のコストが、スタッフ採用のコストと同程度になった時点で、AI導入の判断をすることになるのではないかと思います。

AI導入の初期段階において、AIは、税理士をサポートする優秀なスタッフとして重宝がられ、税理士は事務処理から解放され、業務効率は最大化されます。その結果、税理士は人間にしかできない、付加価値の高い、専門に特化した業務(事業承継や相続税対策、国際税務や国際相続など)に集中でき、ひいては、広く社会に貢献できる存在になれるのではと期待したいと思います。クライアントの立場や状況を踏まえた適切なアドバイスができるのは、今のところ人間しかいません。AIを使いこなせる人間の税理士からアドバイスを受けたいと考えるクライアントは一定数残ると思われ、AIを活用し、付加価値の高い業務に専念できれば、今後も生き残っていけるのではないかと思っています。そして、10年後、日本独自に開発された「AI税理士®」が、社会に貢献している姿を夢みて、これからも頑張っていきたいと思います。